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 竹澤健介×安藤勇太 「SESSION
  (写真左から竹澤、安藤)
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生い立ちを一通り振り返った後、自然と話は競技のことになっていき、自分がよく聞かれる質問をしてみた。


A :走っている時は何を考えている?
T :何を考えているのだろう?意外と試合中って何も考えていないかもね。考えてないって言うとちょっと違うし、所々で考えていることはあるかもしれないけれど‥何を考えているのだろう‥‥勝ちたいとは思っているね。前にいる選手を抜いてやろうとかは思っているけど、「走っている間何を考えていた?」って言われるとわからないね。
A :たしかに。走り終わってからでは思い出せないよね。
T :変に冷静になる時もあるし、自分自身にイッパイイッパイになっているときもあるし、急に客観的になるときもある。何考えているんだろうね?‥‥なぜ走るのかって言われたら、わかんないもんな。何なんだろう。何で一輪車乗るの?
A :出会っちゃったからかな。ホントにそこにあるからって感じだよね。今でもそこにあるものを乗りたいってだけで‥
T :自ら作り出した競技でもないしね。そういう競技があったから、そこに入っただけだし。
  
  
 何かは考えているのだが、後から思い出すことは出来ない。走り終わったときにはある意味どうでもいいことなのかもしれない。“何を考えているか”を考えると、その先には“なぜ走るのか”ということに行き着いた。エベレスト登山の“スター”と呼ばれたジョージ・マロリーはニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「なぜエベレストに登るのですか?」と質問された際、「 Because it is there 」と答えた。適当に答えていただけという説もあるが、私は率直で的確な理由だと思う。
     
  
A :陸上にかける時間って本当に長いよね?
T :長いけど、嫌なら辞めればいいと思う。
A :練習は辛くない?
T :辛いよ、もちろん辛い。でも、自分がやろうって決めたことだからさ。辛いからって投げ出せないし。人から「やれ」って言われたことだったら、いくらでも投げ出すけど。自分で決めたことだから。
A :高校と大学では厳しさとかかわった?
T :高校の時は高校の時の苦しさがあるし、大学には大学の苦しさがある。練習量的には大学の方が厳しいけれど、どっちが厳しいかっていうとわからない。
A :早稲田は健介に合った場所?個を受け入れる環境がある?
T :それは大学に入って伸びた要因の一つ。高校では自分を出せる環境にはなかったかもしれない。そういう状態に自分を置くっていうのも大切だとは思うけど、大学生になった今はそういう場所が必要だとは思っていない。
A :高校でそういう経験もしてきたから、今の早稲田が自分に合っているのかもね。高校から自由な環境だったら、今の環境がいいと思うかはわからないよね。
T :そうだね。また5年後になったら違う環境を望んでいるかもしれないしね。
A :個を受け入れることよりも 、 とにかく厳しい環境を必要とする時期が来るのかもしれないね。
T :それを望む時期もあるかもしれない。
A :高校の 3 年間があって、だからこそ今伸びているんだろうね。
T :うん。そうだね。      


 彼は自分に適した場所を見つけ、自分でつかみ、大きく成長した。それはやはり“たまたま”だったのだろうか‥
  
     
A :大学生って社会人と違って勉強しなくちゃいけなかったりもするじゃん?そういったことってマイナスの部分だとは思わない?
T :でもなんか得ることがあるかな。特にスポーツ科学部だったら、何かしら自分に使える部分が多くあるし。そういうのって凄く自分の為になっていると思う。とか、言ってそんなに聞いてないし、テスト前にちょこっと勉強するぐらいだけど ( 2人で大爆笑 ) でも、繋がるじゃん。長距離って結構 、 栄養学とか関係していて、凄く勉強になることが多い。あとバイオメカニクスでも、陸上選手の歩き方とか走り方とか教えてくれる。そういうのって、他の学部では教えてくれないことだよね。
A :そういうことに興味持っているんだね。
T :やっぱ自分に繋がるからおもしろい。
A :じゃ、とくに国際駅伝とかで社会人と走ったりするときは、学生ということで引け目を感じることとかはない?
T :それはないね。もちろん生活部分ではあるけれど‥まっレースになっちゃえば速く走ったものが勝ちだし。
A :スタートに立っちゃえばあとは一緒?
T :だから、そういう面では引け目はないかな。
A :特別意識していることもない?
T :ないかな‥でも、得られるものは結構あるね。やっていることも違うし、話とか聞いていると勉強にはなるよね。今企業はどういった感じだとか、遠征でどこ行ったとか、高地トレーニングは何で男には合わないかとか陸上の話もするし、そういうのは凄く勉強になる。それ以外は大学生や社会人だということはあまり考えてないね。
  
  
 健介は学生であることをマイナスと感じることなく、むしろ色々なことを学べることをプラスに考えている。その姿勢は彼が毎日 を 過ごす寮の捉え方についても同じであった。
  
     
A :1日どれくらい寝ているの?
T : 22 時に寝て 5 時くらいに起きるから、基本 7 時間だね。
A :それって、自分で決めているの?
T :消灯時間も 22 時だし、それ以前に寝ることも考えるけど明るいからね。だから、 10 時に寝るかな。
A :5時に起きるのは決まり?
T :決まりではないけど、朝練が 6 時とか 6 時半ぐらいから始まるから、それまでに体も起こさなきゃいけないし。
A :結構他の選手もそんな感じで起きるんだ?
T :そうだね。
A :寮は結構、みんな同じような生活リズム?
T :そう。ま、遅くまで起きている人は起きているけどね。
A :寮にいるメリットはある?
T :あると思うよ。寮じゃないと常に人と比べることはできないから。『他の選手よりも俺の方がやっている』『あの選手がこの時間に起きるから、俺も起きるか』みたいな。そういうところって、なかなか一人暮しでは見えないところだよね。みんなが 10 時に寝ていたら、『俺も早く寝て疲れ を とらなくては』とか思うし。当然って言ったら当然なのかもしれないけれど、そういう面では寮は凄くいいと思う。他にも食事も栄養管理が出来ているし。
A :栄養管理は大きいよね。高校から寮だっけ?
T :うん。
A :高校から大学にかけて何か特別に変わって困ったことある?
T :楽になって困っている。
A :そうなんだ!?何が違うの?
T :高校の時はメシ喰って学校行って朝練して、勉強してメシ喰ってトレーニングして、帰ってきてメシ喰って後は勉強とかして寝るだけ。悲しすぎじゃない。今だったら、授業の間も、夜も自分の時間を持てるから。デカいよ。精神的には。
A :あ〜なるほどね。普段スポーツは見たりするの?
T :テレビでスポーツ番組がついていれば見るけど、特にこれを見たいとかはないかな。
A :サッカーの日本代表戦とかみんなで盛り上がったりするの?
T :ウイニングイレブン大会とかはやるよ。
A :寮だから盛り上がりそうだね。寮は何人くらい?
T : 26 人くらいかな。苦じゃないよ。まっ、勇太とかが入ると苦だと思うけどね。
A :共同生活だもんな‥
T :見たくないものも見えるしね。自分勝手になってしまう部分もあるし。
A :それってさ、練習から帰ってきてゆっくりしたいのに、友達がいたりして疲れたりしないの?
T :疲れるけど、それは出してはいけない 、 自分で消化する部分。『ふざけるなよ』って思うこともあるけど、それも『その人はそう思っていないのだろうな』って受け入れなくてはいけないこともある。でも、そういう部分よりも自分が得る部分が大きいから楽しい。
A :普段学校で会うくらいでは人の嫌なところはあまり見えないもんね。
T :嫌なところは社会に出るまであまりわからないと思うし、そういうのを先に経験できているってことは結構いいことなんじゃないかな。だって嫌だからって仕事やめるわけにはいかないし、嫌な人だって出てくるでしょ。
A :その中でどうやるかっていう、ある意味いい勉強になっているわけだね。
T :なっているかな。
  
  
 彼の目覚しい成長には練習だけでなく私生活の面での考え方も影響しているのだと思った。朝早くから練習し、大学の講義を受け、さらに厳しい練習をして帰ってくる場所、それが寮。友人と話したいときもあれば、一人でいたいときもあるだろう。寮の良さはもちろんのこと大変さも感じている。トップアスリートにとって、競技での悩み以上に人間関係などが競技にマイナスの影響を及ぼすことも少なくない。しかし、彼の一貫した考え方は自然とそのマイナス要因を も、 プラスのものとしているようだ。
     
  
A :同じ陸上でも種目によって選手の性格って違う?
T :そうだね、短距離とかは凄く弾けているけど、長距離はみんな生真面目だね。
A :たしかにその感じは食堂で見ていてもわかるね。
T :やっぱ気質が違うよね。競技に合っていくのだろうな。短距離は素質が凄く影響する種目だと思うけど、長距離って努力次第でどうにでもなる部分がある。だから長距離は色々考えなきゃいけない。短距離が適当にやっているのかって言ったらそうではないし、大会に「パン!」って合わせる能力が高いから、そういう部分は凄く尊敬する。だから、そういう部分は見習っていかなきゃいけない。長距離は長距離のやるべきことがあるから、それは崩さずに肉付け出来ればいいかなと思う。取り入れられる部分は取り入れて、捨てる部分は捨てる。野球やサッカーなどの全然違う競技でも、考え方とか気持ちの持っていき方とか、自分の競技に合うものが必ずあるから勉強になる。
A :競技にとらわれることはないってことだね。
T :何か得られるものがあるって考える。合わなければ取り入れなければいい。
A :健介にとって長距離って合っていると思う?
T :合ってはいないかな?気持ち的にすぐ折れるし‥わかんないね。終わってみないと。
A :まだわからないと?
T :自分が何考えているのか、何を吸収できているのかとかわからない。自分がどれぐらい考えられているのかもわからないし。自分のことって自分が一番わかっているのだろうけど、把握しきれてない部分というか・‥わかりきっていない。   
  
 彼の考え方は“長距離”そして“陸上”に固執していない。良いものは良い、色眼鏡で見ることなく、どんなことからでも学べることは学び、必要な部分は取り入れる。初めから決め付けて遮断するのではなく、受け入れてから判断するという姿勢が彼の本当の強みなのかもしれない。
  
     
T :初めから何か上を目指していた訳ではない。この一年で一番わかったことって、上を目指しているといろんな人に出会えるし、出会えた人に話を聞くとその人の世界を知ることが出来た。それが伸びてきたことに一番繋がっているかな。最初は走れればいいって思って何とも思っていなかったけれど、意外と早稲田でしか見えないことや、早稲田にいないと出会えない人もいるわけで、そういう面で凄く早稲田っていう大学に育てて貰っているなって思う。
A :あぁ、確かにそれはあるよね。
T :だって会わないじゃん。スポーツのできる他の多くの大学に行けばスポーツが出来る人には会えるけど、勉強もできてスポーツもできてってなかなかないよ。そういう人と出会えるし、陸上界でもやっぱり早稲田系列の人が結構活躍しているし。話聞くと面白い。
A :そうだね、それにこの大学にいるとそういった OB や OG と話す機会が多くて、初めて会った人でも後輩だから親身に話してくれたりして、早稲田に入ったからこそってことを多々感じるよね。
 じゃあ、やっぱり高卒で会社に入るのとは違うかな?
T :もちろん会社に入っても強くなれば色んな人と出会えると思うけれど、やっぱり早稲田だから、他の競技の人とかと話せる。普通こうやって安藤と話す機会も絶対ないよね。
  
A :陸上じゃなくても他の競技の選手にも影響受ける?
T :受ける!それは凄く感じる。
A :そうだよね。全然知らなくても早稲田ってことだけで親近感沸くし、知っている仲間がここまでやっているのかって思うと自分もやらなきゃなってなるよね。
T :本当にいろんな人がいるからね、みんな勉強できるし。
A :他の駅伝が強い大学はたくさんあるけど、駅伝だけが強いところとかとは違うのかな。
T :それは全然違う。陸上競技っていうもので大学に入ったけれど、別に陸上競技だけにしばられたくない。今いろんな人と出会いたいと一番思っているから、その為に陸上競技で強くなれば、もっと凄い人と出会えるし 、 もっと凄い人と話せるようになるし、もっと自分の知らない世界が見える。そういうのを見てみたいから、っていうのが今一番大きいかもしれない。
A :ある意味チャンス作りだよね。もちろん速く走りたいし、勝ちたいだろうけど、もうそれだけじゃなくて、それに関わってくる+αの部分でがんばれているんじゃないかな?
T :そういう部分でがんばれているのかもしれない。
A :もし結果を残すことで他の人たちと会う機会が増えなくて、記録を出す喜びと勝つ喜びだけが原動力だったとしたら、今行っている普段の練習ってできるのかな?
T :難しいかもね。それならやらないと思う。それだけでやっていたら、多分出来ない部分がある。ま、逆に出来る部分もあると思うけれど。でも、どう転がっているかはわからないけど、今の自分にはなっていないね。
  
  
 小学生のときに勝つ喜びを覚え、走り始めた竹澤健介。彼は大学に入り、走る理由が変わってきた。人はここまで走り続ける彼に対して勝利や記録の亡者と思うかもしれないが、実はそうではないのである。普通はそれを“意外”と思うかもしれないが、自分にとっては“やはり”であった。
  
  
T :会えるってこと、そういう感覚の中にいられることが凄くいい状態。喋るだけじゃなくて、見るのも勉強だし、話してみても年配の記者の方とかは結構言われてドキッとする様なことを聞いてきたり、そういう世界でやっている人は凄いなと思うことがある。そういう人に出会えないと、自分でハッとするような経験も得られない。そういう中でいつの間にか得られている部分があるのかな。そういう部分が人に出会えることの楽しみ。陸上競技じゃなくても、凄く考えている・極めている人に出会える。
A :上に行けばいくほど、そういう機会に恵まれていて、会える人から受ける影響も大きくなるよね。
T :インタビューされているのに、インタビューされている方が勉強になる。ただ聞くだけじゃなくて、応えやすいように聞いてくれる。それに海外の人とか日本に来ているケニア人とかと話すと、強気だし日本人にはないものを持っている。人と出会った数っていうのは大きいと思う。一人の人の意見だけじゃ、物事って判断できないじゃん。いろんな人の意見を聞いてそのなかで自分が正しいと思うことを言うしかない。
A :色んな人に出会うことって、もちろん全部が全部 、 自分に得られるものではないけれど、『こういう考えがあるのか』『こういう人もいるのか』って色々知ることが出来る良い機会だよね。それが上にいけばいくほど、違う分野でもレベルの高いものが見えるし、広く見える。もちろん大学生活の中で仲間と話すことで得ることもあるけれど、上に行けばいくほど普通には得られない経験・話を聞けるのは大きいよね。
T :ただ、それが何なのかって言うのはわからない。結局わからないんだよね。「それはどんな部分ですか」って聞かれてもわかんないし。でも、結果的に自分の身になっている気がする。具体的にはわかんないけど。
A :一人の人間としてレベルアップしている気がするよね。
T :それが自信に成り得る。レースの時には考えないけどね。
A :その価値がお金に換算されるわけでも、タイムが縮むわけじゃないけれど、気持ち的にレベルアップして人間として大きなものを得られた気がするよね。でも同じように健介も周りの人に大きな影響を与えているよ。
     
  
 スポーツはそれ自体を楽しむ“目的”でありながら、“手段”でもある。たくさんの人と出会う手段であり、人として大切なものを得る手段。彼はこれから多くの出会いを重ねることにより更に成長していくのだろう。日本を代表するランナーとして、そしてひとりの人間として。
  
  
 最終章となる次回、安藤は竹澤に一番聞きたかった質問をぶつける。そして今回の SESSION で新たな感覚を得ることになる。
  
 <続く … >
 



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竹澤 健介
早稲田大学スポーツ科学部2年
兵庫県出身

昨夏のヨーロッパ遠征で、
5000m日本歴代3位を記録。
箱根駅伝で2年連続2区を任される早稲田駅伝のエース。
安藤 勇太
早稲田大学スポーツ科学部2年
愛知県出身

小学校1年で一輪車を始め、日本はもとより 世界のトップ で活躍しつづけるユニサイクリスト。
昨年8月にスイスで行われた世界大会で100mと 1500m部門で優勝。

 


,競走部,一輪車,駅伝,箱根駅伝,ユニサイクル">

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 竹澤健介×安藤勇太 「SESSION
  (写真左から竹澤、安藤)
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生い立ちを一通り振り返った後、自然と話は競技のことになっていき、自分がよく聞かれる質問をしてみた。


A :走っている時は何を考えている?
T :何を考えているのだろう?意外と試合中って何も考えていないかもね。考えてないって言うとちょっと違うし、所々で考えていることはあるかもしれないけれど‥何を考えているのだろう‥‥勝ちたいとは思っているね。前にいる選手を抜いてやろうとかは思っているけど、「走っている間何を考えていた?」って言われるとわからないね。
A :たしかに。走り終わってからでは思い出せないよね。
T :変に冷静になる時もあるし、自分自身にイッパイイッパイになっているときもあるし、急に客観的になるときもある。何考えているんだろうね?‥‥なぜ走るのかって言われたら、わかんないもんな。何なんだろう。何で一輪車乗るの?
A :出会っちゃったからかな。ホントにそこにあるからって感じだよね。今でもそこにあるものを乗りたいってだけで‥
T :自ら作り出した競技でもないしね。そういう競技があったから、そこに入っただけだし。
  
  
 何かは考えているのだが、後から思い出すことは出来ない。走り終わったときにはある意味どうでもいいことなのかもしれない。“何を考えているか”を考えると、その先には“なぜ走るのか”ということに行き着いた。エベレスト登山の“スター”と呼ばれたジョージ・マロリーはニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「なぜエベレストに登るのですか?」と質問された際、「 Because it is there 」と答えた。適当に答えていただけという説もあるが、私は率直で的確な理由だと思う。
     
  
A :陸上にかける時間って本当に長いよね?
T :長いけど、嫌なら辞めればいいと思う。
A :練習は辛くない?
T :辛いよ、もちろん辛い。でも、自分がやろうって決めたことだからさ。辛いからって投げ出せないし。人から「やれ」って言われたことだったら、いくらでも投げ出すけど。自分で決めたことだから。
A :高校と大学では厳しさとかかわった?
T :高校の時は高校の時の苦しさがあるし、大学には大学の苦しさがある。練習量的には大学の方が厳しいけれど、どっちが厳しいかっていうとわからない。
A :早稲田は健介に合った場所?個を受け入れる環境がある?
T :それは大学に入って伸びた要因の一つ。高校では自分を出せる環境にはなかったかもしれない。そういう状態に自分を置くっていうのも大切だとは思うけど、大学生になった今はそういう場所が必要だとは思っていない。
A :高校でそういう経験もしてきたから、今の早稲田が自分に合っているのかもね。高校から自由な環境だったら、今の環境がいいと思うかはわからないよね。
T :そうだね。また5年後になったら違う環境を望んでいるかもしれないしね。
A :個を受け入れることよりも 、 とにかく厳しい環境を必要とする時期が来るのかもしれないね。
T :それを望む時期もあるかもしれない。
A :高校の 3 年間があって、だからこそ今伸びているんだろうね。
T :うん。そうだね。      


 彼は自分に適した場所を見つけ、自分でつかみ、大きく成長した。それはやはり“たまたま”だったのだろうか‥
  
     
A :大学生って社会人と違って勉強しなくちゃいけなかったりもするじゃん?そういったことってマイナスの部分だとは思わない?
T :でもなんか得ることがあるかな。特にスポーツ科学部だったら、何かしら自分に使える部分が多くあるし。そういうのって凄く自分の為になっていると思う。とか、言ってそんなに聞いてないし、テスト前にちょこっと勉強するぐらいだけど ( 2人で大爆笑 ) でも、繋がるじゃん。長距離って結構 、 栄養学とか関係していて、凄く勉強になることが多い。あとバイオメカニクスでも、陸上選手の歩き方とか走り方とか教えてくれる。そういうのって、他の学部では教えてくれないことだよね。
A :そういうことに興味持っているんだね。
T :やっぱ自分に繋がるからおもしろい。
A :じゃ、とくに国際駅伝とかで社会人と走ったりするときは、学生ということで引け目を感じることとかはない?
T :それはないね。もちろん生活部分ではあるけれど‥まっレースになっちゃえば速く走ったものが勝ちだし。
A :スタートに立っちゃえばあとは一緒?
T :だから、そういう面では引け目はないかな。
A :特別意識していることもない?
T :ないかな‥でも、得られるものは結構あるね。やっていることも違うし、話とか聞いていると勉強にはなるよね。今企業はどういった感じだとか、遠征でどこ行ったとか、高地トレーニングは何で男には合わないかとか陸上の話もするし、そういうのは凄く勉強になる。それ以外は大学生や社会人だということはあまり考えてないね。
  
  
 健介は学生であることをマイナスと感じることなく、むしろ色々なことを学べることをプラスに考えている。その姿勢は彼が毎日 を 過ごす寮の捉え方についても同じであった。
  
     
A :1日どれくらい寝ているの?
T : 22 時に寝て 5 時くらいに起きるから、基本 7 時間だね。
A :それって、自分で決めているの?
T :消灯時間も 22 時だし、それ以前に寝ることも考えるけど明るいからね。だから、 10 時に寝るかな。
A :5時に起きるのは決まり?
T :決まりではないけど、朝練が 6 時とか 6 時半ぐらいから始まるから、それまでに体も起こさなきゃいけないし。
A :結構他の選手もそんな感じで起きるんだ?
T :そうだね。
A :寮は結構、みんな同じような生活リズム?
T :そう。ま、遅くまで起きている人は起きているけどね。
A :寮にいるメリットはある?
T :あると思うよ。寮じゃないと常に人と比べることはできないから。『他の選手よりも俺の方がやっている』『あの選手がこの時間に起きるから、俺も起きるか』みたいな。そういうところって、なかなか一人暮しでは見えないところだよね。みんなが 10 時に寝ていたら、『俺も早く寝て疲れ を とらなくては』とか思うし。当然って言ったら当然なのかもしれないけれど、そういう面では寮は凄くいいと思う。他にも食事も栄養管理が出来ているし。
A :栄養管理は大きいよね。高校から寮だっけ?
T :うん。
A :高校から大学にかけて何か特別に変わって困ったことある?
T :楽になって困っている。
A :そうなんだ!?何が違うの?
T :高校の時はメシ喰って学校行って朝練して、勉強してメシ喰ってトレーニングして、帰ってきてメシ喰って後は勉強とかして寝るだけ。悲しすぎじゃない。今だったら、授業の間も、夜も自分の時間を持てるから。デカいよ。精神的には。
A :あ〜なるほどね。普段スポーツは見たりするの?
T :テレビでスポーツ番組がついていれば見るけど、特にこれを見たいとかはないかな。
A :サッカーの日本代表戦とかみんなで盛り上がったりするの?
T :ウイニングイレブン大会とかはやるよ。
A :寮だから盛り上がりそうだね。寮は何人くらい?
T : 26 人くらいかな。苦じゃないよ。まっ、勇太とかが入ると苦だと思うけどね。
A :共同生活だもんな‥
T :見たくないものも見えるしね。自分勝手になってしまう部分もあるし。
A :それってさ、練習から帰ってきてゆっくりしたいのに、友達がいたりして疲れたりしないの?
T :疲れるけど、それは出してはいけない 、 自分で消化する部分。『ふざけるなよ』って思うこともあるけど、それも『その人はそう思っていないのだろうな』って受け入れなくてはいけないこともある。でも、そういう部分よりも自分が得る部分が大きいから楽しい。
A :普段学校で会うくらいでは人の嫌なところはあまり見えないもんね。
T :嫌なところは社会に出るまであまりわからないと思うし、そういうのを先に経験できているってことは結構いいことなんじゃないかな。だって嫌だからって仕事やめるわけにはいかないし、嫌な人だって出てくるでしょ。
A :その中でどうやるかっていう、ある意味いい勉強になっているわけだね。
T :なっているかな。
  
  
 彼の目覚しい成長には練習だけでなく私生活の面での考え方も影響しているのだと思った。朝早くから練習し、大学の講義を受け、さらに厳しい練習をして帰ってくる場所、それが寮。友人と話したいときもあれば、一人でいたいときもあるだろう。寮の良さはもちろんのこと大変さも感じている。トップアスリートにとって、競技での悩み以上に人間関係などが競技にマイナスの影響を及ぼすことも少なくない。しかし、彼の一貫した考え方は自然とそのマイナス要因を も、 プラスのものとしているようだ。
     
  
A :同じ陸上でも種目によって選手の性格って違う?
T :そうだね、短距離とかは凄く弾けているけど、長距離はみんな生真面目だね。
A :たしかにその感じは食堂で見ていてもわかるね。
T :やっぱ気質が違うよね。競技に合っていくのだろうな。短距離は素質が凄く影響する種目だと思うけど、長距離って努力次第でどうにでもなる部分がある。だから長距離は色々考えなきゃいけない。短距離が適当にやっているのかって言ったらそうではないし、大会に「パン!」って合わせる能力が高いから、そういう部分は凄く尊敬する。だから、そういう部分は見習っていかなきゃいけない。長距離は長距離のやるべきことがあるから、それは崩さずに肉付け出来ればいいかなと思う。取り入れられる部分は取り入れて、捨てる部分は捨てる。野球やサッカーなどの全然違う競技でも、考え方とか気持ちの持っていき方とか、自分の競技に合うものが必ずあるから勉強になる。
A :競技にとらわれることはないってことだね。
T :何か得られるものがあるって考える。合わなければ取り入れなければいい。
A :健介にとって長距離って合っていると思う?
T :合ってはいないかな?気持ち的にすぐ折れるし‥わかんないね。終わってみないと。
A :まだわからないと?
T :自分が何考えているのか、何を吸収できているのかとかわからない。自分がどれぐらい考えられているのかもわからないし。自分のことって自分が一番わかっているのだろうけど、把握しきれてない部分というか・‥わかりきっていない。   
  
 彼の考え方は“長距離”そして“陸上”に固執していない。良いものは良い、色眼鏡で見ることなく、どんなことからでも学べることは学び、必要な部分は取り入れる。初めから決め付けて遮断するのではなく、受け入れてから判断するという姿勢が彼の本当の強みなのかもしれない。
  
     
T :初めから何か上を目指していた訳ではない。この一年で一番わかったことって、上を目指しているといろんな人に出会えるし、出会えた人に話を聞くとその人の世界を知ることが出来た。それが伸びてきたことに一番繋がっているかな。最初は走れればいいって思って何とも思っていなかったけれど、意外と早稲田でしか見えないことや、早稲田にいないと出会えない人もいるわけで、そういう面で凄く早稲田っていう大学に育てて貰っているなって思う。
A :あぁ、確かにそれはあるよね。
T :だって会わないじゃん。スポーツのできる他の多くの大学に行けばスポーツが出来る人には会えるけど、勉強もできてスポーツもできてってなかなかないよ。そういう人と出会えるし、陸上界でもやっぱり早稲田系列の人が結構活躍しているし。話聞くと面白い。
A :そうだね、それにこの大学にいるとそういった OB や OG と話す機会が多くて、初めて会った人でも後輩だから親身に話してくれたりして、早稲田に入ったからこそってことを多々感じるよね。
 じゃあ、やっぱり高卒で会社に入るのとは違うかな?
T :もちろん会社に入っても強くなれば色んな人と出会えると思うけれど、やっぱり早稲田だから、他の競技の人とかと話せる。普通こうやって安藤と話す機会も絶対ないよね。
  
A :陸上じゃなくても他の競技の選手にも影響受ける?
T :受ける!それは凄く感じる。
A :そうだよね。全然知らなくても早稲田ってことだけで親近感沸くし、知っている仲間がここまでやっているのかって思うと自分もやらなきゃなってなるよね。
T :本当にいろんな人がいるからね、みんな勉強できるし。
A :他の駅伝が強い大学はたくさんあるけど、駅伝だけが強いところとかとは違うのかな。
T :それは全然違う。陸上競技っていうもので大学に入ったけれど、別に陸上競技だけにしばられたくない。今いろんな人と出会いたいと一番思っているから、その為に陸上競技で強くなれば、もっと凄い人と出会えるし 、 もっと凄い人と話せるようになるし、もっと自分の知らない世界が見える。そういうのを見てみたいから、っていうのが今一番大きいかもしれない。
A :ある意味チャンス作りだよね。もちろん速く走りたいし、勝ちたいだろうけど、もうそれだけじゃなくて、それに関わってくる+αの部分でがんばれているんじゃないかな?
T :そういう部分でがんばれているのかもしれない。
A :もし結果を残すことで他の人たちと会う機会が増えなくて、記録を出す喜びと勝つ喜びだけが原動力だったとしたら、今行っている普段の練習ってできるのかな?
T :難しいかもね。それならやらないと思う。それだけでやっていたら、多分出来ない部分がある。ま、逆に出来る部分もあると思うけれど。でも、どう転がっているかはわからないけど、今の自分にはなっていないね。
  
  
 小学生のときに勝つ喜びを覚え、走り始めた竹澤健介。彼は大学に入り、走る理由が変わってきた。人はここまで走り続ける彼に対して勝利や記録の亡者と思うかもしれないが、実はそうではないのである。普通はそれを“意外”と思うかもしれないが、自分にとっては“やはり”であった。
  
  
T :会えるってこと、そういう感覚の中にいられることが凄くいい状態。喋るだけじゃなくて、見るのも勉強だし、話してみても年配の記者の方とかは結構言われてドキッとする様なことを聞いてきたり、そういう世界でやっている人は凄いなと思うことがある。そういう人に出会えないと、自分でハッとするような経験も得られない。そういう中でいつの間にか得られている部分があるのかな。そういう部分が人に出会えることの楽しみ。陸上競技じゃなくても、凄く考えている・極めている人に出会える。
A :上に行けばいくほど、そういう機会に恵まれていて、会える人から受ける影響も大きくなるよね。
T :インタビューされているのに、インタビューされている方が勉強になる。ただ聞くだけじゃなくて、応えやすいように聞いてくれる。それに海外の人とか日本に来ているケニア人とかと話すと、強気だし日本人にはないものを持っている。人と出会った数っていうのは大きいと思う。一人の人の意見だけじゃ、物事って判断できないじゃん。いろんな人の意見を聞いてそのなかで自分が正しいと思うことを言うしかない。
A :色んな人に出会うことって、もちろん全部が全部 、 自分に得られるものではないけれど、『こういう考えがあるのか』『こういう人もいるのか』って色々知ることが出来る良い機会だよね。それが上にいけばいくほど、違う分野でもレベルの高いものが見えるし、広く見える。もちろん大学生活の中で仲間と話すことで得ることもあるけれど、上に行けばいくほど普通には得られない経験・話を聞けるのは大きいよね。
T :ただ、それが何なのかって言うのはわからない。結局わからないんだよね。「それはどんな部分ですか」って聞かれてもわかんないし。でも、結果的に自分の身になっている気がする。具体的にはわかんないけど。
A :一人の人間としてレベルアップしている気がするよね。
T :それが自信に成り得る。レースの時には考えないけどね。
A :その価値がお金に換算されるわけでも、タイムが縮むわけじゃないけれど、気持ち的にレベルアップして人間として大きなものを得られた気がするよね。でも同じように健介も周りの人に大きな影響を与えているよ。
     
  
 スポーツはそれ自体を楽しむ“目的”でありながら、“手段”でもある。たくさんの人と出会う手段であり、人として大切なものを得る手段。彼はこれから多くの出会いを重ねることにより更に成長していくのだろう。日本を代表するランナーとして、そしてひとりの人間として。
  
  
 最終章となる次回、安藤は竹澤に一番聞きたかった質問をぶつける。そして今回の SESSION で新たな感覚を得ることになる。
  
 <続く … >
 



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竹澤 健介
早稲田大学スポーツ科学部2年
兵庫県出身

昨夏のヨーロッパ遠征で、
5000m日本歴代3位を記録。
箱根駅伝で2年連続2区を任される早稲田駅伝のエース。
安藤 勇太
早稲田大学スポーツ科学部2年
愛知県出身

小学校1年で一輪車を始め、日本はもとより 世界のトップ で活躍しつづけるユニサイクリスト。
昨年8月にスイスで行われた世界大会で100mと 1500m部門で優勝。